胸郭出口症候群
胸郭出口症候群は筋肉や鎖骨が血管、神経の通りみちを圧迫しておこります
胸郭出口症候群とは、斜角筋、鎖骨、第一肋骨、小胸筋などから成る“胸郭”と呼ばれる部分で神経の通り道(出口)が狭くなり、神経や血管を圧迫、牽引してしまうことによって起こる一群の症状です。もともとは、斜角筋症候群、肋鎖症候群、過外転症候群(小胸筋症候群)に分かれていましたが、それらを一つにまとめて、1956年、Peetによって“TOS:Thoracic outlet syndrome(胸郭出口症候群)”と名付けられました。
主な症状は、肩~背中の凝り、腕や手のしびれ、脱力感、倦怠感、痛みなどで、時に自律神経失調症の様な症状も引き起こすことがあります。
首に問題があり神経を圧迫している場合でも、「腕や手のしびれ」といった症状が起こりますが、頚椎が原因の場合は、首の動き(後ろを向いたり、横を向いたり)により症状の増悪が起こりまます。
一方、胸郭出口症候群の場合は、首の動きによる症状の増悪ではなく、腕や胸郭の位置(腕を上にあげる、腕が下へ引っ張られる、肩甲骨を下へ下げる動作、肩に圧迫をかける)により症状の増悪が起こるのが特徴です。
- 電車の吊り革、洗濯物を干す、車の運転、理美容師 など
- 重い荷物を肩に担ぐ、リュック、肩掛けバッグ、オーバーコート など
【胸郭出口症候群の簡単テスト】
三分間挙上テスト:両腕を上に上げた姿勢で三分間維持します。症状がある方の腕や手の肌の色が白くなったり、“痺れ”や“だるさ”が出てくる場合は陽性です。実際やってみると、健康な人でも結構しんどいテストなので陽性率は高いようです。胸郭出口症候群のある人は30秒~1分でもかなり辛く感じる人が多いです。
解説
なで肩の女性に多いといわれているのが 『胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)』(TOS:Thoracic outlet syndrome)です。
しかし、実際は、男性にも多くみられ、格闘技など斜角筋(首を支える筋肉)や小胸筋(大胸筋の下層部にある筋肉)を鍛えている方にもよく起こります。
血管や神経を圧迫しているしている部位によって、
A:斜角筋症候群(しゃかくきんしょうこうぐん)
B:過外転症候群(かがいてんしょうこうぐん)
C:肋鎖症候群(ろくさしょうこうぐん)
に分類することができます。
胸郭出口症候群は、いろいろな原因で、これらの神経の通り道が狭くなり、血管や神経を圧迫するために、肩こり、腕や手のしびれ、手の血行不良(冷え、だるさ)などの症状を引き起こします。
また、ひどくなると、耳鳴りやふらつき感、後頭部から耳、口のあたりのしびれ感にまで及ぶことがあり、自律神経失調症を起こすこともあります。
脳や頚椎症、椎間板ヘルニアに異常が見当たらないのに症状がある場合、疑ってみます。
拡大 A 斜角筋症候群とは…
「中斜角筋」「前斜角筋」「第一肋骨」の三つにが構成する三角形の隙間を『斜角筋隙(しゃかくきんげき)』といいます。この狭い通り道を腕神経叢という神経の束と鎖骨下動脈が通ります。圧迫が加わることにより症状がでます。
【アドソンテスト(斜角筋症候群テスト)】
拡大 B 過外転症候群(小胸筋症候群)とは…
過外転(かがいてん)とは、腕を外転にしたときの状態です。肩甲骨の烏口突起と小胸筋の圧迫をうけると症状が起こります。
小胸筋により圧迫を受けて腕神経叢という神経の束と鎖骨下動脈に障害が起こります。
仰向けに寝た場合、小胸筋が緊張している側は、上のイラストのように床から浮き上がっています。
【ライトテスト(過外転症候群テスト)】
過外転症候群(小胸筋緊張)のときに陽性が現れやすいライトテスト(Wright's test)
原因
原因は大きく2種類に分けると、『①なで肩』 と 『②筋緊張』 があります。
① なで肩 -ストレッチ型-
猫背や頭部前方偏位などの不良姿勢により、鎖骨が下に押し下げられ、なで肩を強いられると起こりやすくなります。また、首の形状がストレートネックになっていると、背中は同時に猫背になりやすく顎を突き出した姿勢になるので発症しやすくなります。レントゲンで撮ると、鎖骨が下に下がっている分、首が長く見えます。胸郭出口症候群の約8割りはこのストレッチ型と言われています。
正常な鎖骨の形は、上のイラスト左のように 『軽いV字』 になっていますが、なで肩の人は右のように一直線であるか逆にハの字になっています。肩を支える(持ち上げる)筋力が減少していることに起因します。(一説には鎖骨は一直線が理想である。とされていますが、それはファッション体型であって、解剖学的肢位ではわずかにVの字になっています。レントゲン検査などで鎖骨が直線、もしくはハの字型になっていて肩こりや手のしびれがある場合はご注意ください。また、厳密な角度設定はありませんがVの字が強すぎる場合は、いわゆる「いかり肩」になります。)
鎖骨が一直線からハの字の体型というのは、周辺の神経(腕神経叢)や筋肉がたえず下に引っ張られている状態です。ちょうと、ギターの弦がピ~ンと張っているのと似ています。常にピ~ンと張っている状態なのでストレスがいつも加わっています。軽く肩を持ち上げる(鎖骨が軽い逆ハの字型にする)と症状が和らぐのはこの張った神経や筋肉を “たわませる” 効果があるためです。
② 筋緊張型
小胸筋を中心とした胸の筋肉をよく鍛えている方の場合、胸郭の出口が狭くなりやすいので発症しやすくなします。
- 格闘家のように顎を引き背中を丸くし低姿勢の状態でトレーニングをする方。
- 弦楽器(ギターやバイオリンなど)のように同じ姿勢で腕を小刻みに動かす。
- 重い荷物などをいつも決まった側で持っている(担いでいる)方。
は、特にご注意ください。
その他の原因
胸式呼吸(咳やクシャミ、過呼吸、花粉症)
胸郭出口症候群の原因筋である斜角筋や小胸筋は呼吸の補助筋で、激しい運動や咳、クシャミ、鼻をすする、過呼吸など、肩で息をするときによく働きます。風邪の後、首肩の痛みや手のしびれが出たときや、普段から胸式呼吸の場合はこれを疑います。
ストレスや緊張
斜角筋はストレスや緊張、ショックなどに対し、敏感に反応して異常収縮を起こしやすい筋肉のひとつです。
改善方法
上に記した原因(撫で肩、筋緊張、ストレートネック、不良姿勢)は全て猫背(肩の前方への巻き込み)に起因しています。よって、整体の手技やストレッチなどで肩の巻きを改善させ、神経と血管の通り道を確保してやる必要があります。
また、胸式呼吸により起こる場合は、腹式呼吸トレーニングが有効な改善方法のひとつになります。