寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)

寛骨臼形成不全症とは、寛骨臼(かんこつきゅう)が小さくて浅い状態で、大腿骨頭(だいたいこっとう)を十分に受けとめることができないために起こる疾患をいい、“大腿骨の骨頭中心を通過する垂線と寛骨臼の外上縁を結んだ線の交わりが形成する角度(CE角)が20°未満”とされています。臼蓋形成不全は旧名称です。

日本人の変形性股関節症の原因の多くはこの「寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)」です。

寛骨臼形成不全 イラスト

大腿骨頭に対して寛骨臼の被りが浅い状態ですが、では被りが浅いとはどの位の角度を言うのでしょうか。

その指標には、 CE角Sharp角(シャープ角)骨頭寛骨臼指数(AHI) などがあります。これらは、単純X線写真にて測定します。

寛骨臼形成不全のCE角とSharp角

CE角とは、大腿骨の骨頭中心に下した垂線と、大腿骨の骨頭中心と寛骨臼外側上縁を結んだ線のなす角のことで、これが、20度以下だと被りが浅いとされています。(正常値は25度)

Sharp角(シャープ角)とは、左右の涙痕を結んだ線と、涙痕と寛骨臼外側上縁を結んだ線のなす角のことで、45度以上だと被りが浅いとされています。

骨頭寛骨臼指数(AHI)

変形性股関節症の一次性と二次性

一次性とは、もともと股関節に形体的異常がなかったにもかかわらず大人になってから肥満や生活習慣などで股関節に負担をかけて変形性股関節症を発症したものをいいます。

一方、二次性とは、もともと股関節の形に被りが浅いなどの弱点があり、それが大人になって変形性股関節症を発症したものです。寛骨臼形成不全はこの二次性にあたります。

寛骨臼形成不全の原因

はっきりとした原因はいまだ不明ですが、先天性と後天性があります。

先天性によるもの

先天性股関節脱臼や遺伝によるもの、逆子説などが有名です。

逆子説:本来、お腹の赤ちゃんの頭は下を向き足が上になっています。そういう状態であることによって、足をばたばたと伸ばしたり縮めたり自由に動かすことができるようになっています。ですが、逆子の状態であると、足を動かすスペースが制限されてしまいますので、股関節がずれたり、場合によっては脱臼してしまう。

後天性によるもの

環境、生活習慣により起こるものです。

赤ちゃんの時は、三角おむつを使用しないことやおんぶ、抱っこの時の足の位置に注意が必要です。特に、最近流行りのスリング使用により股関節脱臼を起こすことがあるので、スイング使用の際は股関節は伸ばさずにM字であるようにしましょう。

前捻角(ぜんねんかく)が原因の場合

前捻角

前捻角は、子供では角度が大きく、大人になるにつれて角度が小さくなって行きます。子供の頃(成長期)に、トンビ座り(アヒル座り)や横座りを繰り返すと、股関節が内旋位のまま成長してしまいます。そうすると、大腿骨前捻角の成長がさまたげられて、前捻角の角度が大きいままになってしまうので寛骨臼形成不全を起こすことがあります

下のイラストは前捻角が大きい状態(過前捻:かぜんねん)により股関節の接合部 ☆ が前方にずれてしまっています。
これでは、股関節は安定して体を支えることができません。

前捻角 過前捻

一方、下のイラストは、過前捻の人が股関節を安定させようとして、股関節の接合部 ☆ を合わせると、膝が内旋してしまいます。

前捻角 過前捻による膝の内旋

症状 経過

関節の被りが浅くても、若いころは股関節部の新陳代謝が盛んで、関節に負担がかかっていても、軟骨がすり減ったり、股関節周囲(関節唇など)に炎症が波及するまでいたらないので痛みを感じないケースが多いのです。

関節唇(かんせつしん)の位置を確認してください ↓↓

股関節の略図

10~20歳代では、痛みなどの症状はほとんど起こらずに過ぎます。たまに股関節がカクンとなる感覚が起こることがあります。

症状の発症は、多くの場合30~40歳頃で、少しずつ違和感や痛みを感じるようになります。

寛骨臼形成不全の方は、寛骨臼側の屋根が浅い分、関節唇が大腿骨頭を支えています。そのため、股関節唇の負担が大きくなり、関節唇損傷を引き起こすことがあります。↓↓

寛骨臼形成不全による関節唇損傷

股関節内の軟骨には神経がないので、すり減っても痛みを感じませんが、関節唇は、痛みの受容器が豊富に存在するので、痛みを感じます。

関節唇は、スクワットの様な動き(しゃがみ込み)、階段や登山など、股関節の屈曲でダメージを受けやすくなり、そのような動作をきっかけに、痛みなどの症状が発症することがよくあります。

関節に隙間があり軟骨がすり減っていない寛骨臼形成不全症は変形性股関節症の“前期股関節症”に当たります

関節唇損傷をきっかけに、変形性股関節症の初期→進行期→末期へと進んでいくことがあるので注意が必要です。

股関節唇損傷についてもっと詳しく → →

保存療法(対応と処置)

まず行われるのが保存療法です。保存療法には、運動療法、薬物療法、安静療法、食事療法、などがあります。手術療法のように体を傷付ける治療法以外のことです。

  • 運動療法 … 関節可動域の改善、筋肉・周辺組織の機能回復、筋力トレーニングやストレッチなど
  • 薬物療法 … 飲み薬や外用薬などによる消炎鎮痛、血行促進
  • 関節内圧の軽減 … 杖を使用すること、長期歩行は避けること(一日1万歩を超えないようにする)、体重を減らすことなど(歩行時には片足に体重の約4倍もの負荷がかかると言われています。体重50kgの人なら歩行で一歩踏み出すたびに約200kgの負荷がかかってしまいます。)

状態が進行すると手術療法を迫られるケースも出てきます。(人工股関節による置換手術や寛骨臼回転骨切り術などの自骨による温存手術)

運動療法の注意点

保存療法で一番大切なことは、「関節に負荷をかけない」ことです。寛骨臼形成不全の患者さんの股関節は内圧が高くなっていますので、これを軽減してあげることを考えなくてはなりません。

筋トレは病院での指導やリハビリで良く勧められる方法ですが、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の場合、関節窩が浅いので一点加重(関節の一点に体重がかかってしまう)になりやすいし、「関節の内圧が上がってしまう」という危険性があります。また、外転筋(中殿筋など)を鍛えすぎてしまうと、大腿骨を引っ張り上げてしまい脱臼しやすくなるので注意が必要です。

  • 股関節に荷重がかかる運動、筋トレ(スクワット、自重運動、体幹トレーニング など)
  • ジグリング(貧乏ゆすり) … 軟骨再生で有名なジグリングですが、寛骨臼形成不全では効果が薄いとされています。
  • 股関節を軸にした運動、筋トレ(足あげ、足の横あげ など)
    例えば、仰向けに寝て足を持ち上げる筋トレは最も良く行われている運動の一つですが、この運動で股関節にはご自身の体重とほぼ同じだけの圧力が加わってしまいます。体重50kgの人なら約50kgの力になります。)
  • 長時間のウオーキング・エアロバイク
  • 水泳やプール歩行足上げ運動

などを行っている方は注意してください。

筋肉は、積極的な筋トレにより作るより、痛みが軽減してくることによって自然と増えてくるものです。